アンチワークって何?働かないことを肯定する社会は来るのか。
心の底から「働きたくない」と思ったことはありますか?
私は何度もあります笑。
そんな「働きたくない」という感情ですが、実は今、米国で大きな社会運動になっています。その社会運動の名とは「Anti-Work Movement」(アンチワーク・ムーヴメント)です。直訳すると、「反労働」運動でしょうか。多くの労働者が働くことを拒否して、退職したり、起業したり、正社員からパートタイムにシフトしたりしています。嘘みたいな話に聞こえるかもしれませんが、本当に起きています。
今日はそんな、「アンチワーク・ムーブメント」が発生するまでの経緯や現状を調べてみました。アンチワーク運動に関して、共感できる部分や違和感を感じる部分等、色々な反応に分かれると思います。個人的には、この「アンチワーク・ムーブメント」を知ることが、自身の労働観や優先順位を見直すきっかけとなりました。
目次
アンチワークの歴史
「アンチワーク」の起源は、インターネット掲示板の「reddit」に立てられたスレです。スレのスローガンは、「Unemployment for all, not just the rich!」(失業は万民の権利だ、お金持ちだけではなく)でした。スレの目標は、労働から解放された生活を楽しみ、悪烈な労働環境や雇用主に対抗するためのコミュニティを作ること、です。当時のスレの中身は主に、職場でのイヤな経験や、悪質な雇用主に対する抗議、そして「ブラック・フライデー」などの買物イベントのボイコット運動の呼びかけ、が多かったみたいです。
徐々に登録者数を増やしていた「アンチワーク」スレですが、2021年にユーザ数が爆発的に伸びます。2021年10月付近には、100万人を突破。そして現在は、150万人を越しました。
引用元:https://subredditstats.com/r/antiwork
一体何が起きたのでしょうか。
すでにお気づきかもしれませんが、新型コロナ感染症です。現在も進行中のパンデミックですが、2020年・2021年はロックダウンや営業中止、リモートワークの普及等により、私たちの労働環境が大きく変わった時期です。中でも大きな打撃を受けたのは「エッセンシャルワーカー」や「サービスワーカー」などと呼ばれている方々です(社会インフラや飲食・小売などのサービス業などの職種)。また、いわゆる「ホワイトカラー」と呼ばれる方々も、リモートワークの推奨等、働き方が大きく変わりました。つまり、世界中で同時に、様々な職種の方々の「雇用状況」や「労務環境」が大きく変わったのです。
ここで一つ注意しなければいけないことがあります。パンデミックが直接、「アンチワーク」運動を引き起こしたわけではないことです。労働に対する嫌悪感は、遥か昔から存在しておりました。近代は、今とは比べ物にならない劣悪な環境で働いておりました。その度に私たちは、社会運動などを通して「まともな労働環境」を勝ち取ってきた歴史があります。そして現代も、大分マシにはなったとは言え、私たちの労働環境はまだまだ問題があります。過酷な労働環境、全く充足感が無い仕事、役職と自身の価値を混同している「モンスター上司」など、例を挙げるとキリがありません。ともあれ、「働くこと」に対する嫌悪感・違和感は、パンデミック前から着実に膨れ上がっていたのは事実です。
加えて、IT技術の普及により、職場がどんどんハイテク化していることも大きな要因かもしれません。生産性の向上など、良い面も数多くありますが、常に職場にいる感覚が拭えず、疲れている方も多いのではないでしょうか。ハイテク化した社会をテーマにした小説に興味がある方は、ぜひ知ると未来が想像できちゃう?サイバーパンクの紹介!で読んでみてください。テクノロジーが進化した社会の負の側面を感じ取れるかと思います。
そんな状況の中、パンデミックが発生します。「経済活動」含め、いろいろなものが一旦止まりました。無意識に、がむしゃらに目指すべきだったはずの「成功」の存在感が薄れました。そして残ったのは、私たちが納得して許容していたはずの「労働」です。そしてその「労働」は、どうやら虚しく、意味もなく犠牲が多く、私たちの健康には関心が無さそうでした。そんな状況の中、多くの人が一種の「目覚め」を体感します。
パンデミック以前は収入やキャリア、地位などを重要視していた人々が、自身の「well-being」、つまり、「幸福」の大切さに気づき始めました。それまで「成功」のためには仕方がないと諦めていたもの、犠牲を払っていたものに目が向かい始めたとも言えます。その結果、「アンチワーク」スレが爆発的に支持を集め始めました。
アンチワーク運動の影響
パンデミック下で莫大な指示を集めた「アンチワーク」運動ですが、実社会にはどのような影響があったのでしょうか。一見すると、不満を抱えた人々がインターネットのスレに賛同しているだけなのでは、と思うかもしれません。しかし、実際には「賛同」を通り越して「行動」している人が爆発的に増えたのです。
米国では現在、「The Great Resignation」(大退職時代)の真っ只中にあります。月別の退職者数が、過去に類を見ない水準で高いのです。例えば、2021年4月の退職者数は、約400万人でした(同年6月も、ほぼ同じくらい)。それに対して、2021年6月の求職者数は約1000万人もありました。退職者数と求職者数のギャップを見る限り、どうやら多くの人が退職後、「働かない」もしくは「自営業に転ずる」という選択肢を取っているみたいなのです。
これらの選択が全て、「アンチワーク」運動による影響とは言えないかもしれません。しかし、近況を見る限りは多くの人々が働くことを止めているようです。つまり、パンデミックの発生に伴い人々の価値観が変化した結果「アンチワーク」に賛同する人が増え、「働かない」という選択肢を選ぶ人々も増えていると考えることができます。
アンチワークを支持している年齢層
一大ムーブメントと化している「アンチワーク」ですが、主にどの年齢層から支持を得ているのでしょうか。
答えは、ミレニアム世代やZ世代と呼ばれる層です。
今の20代〜30代に当たる方々でしょうか。しかしたら、「Z世代」はあまり聞きなれない言葉かもしれませんね。シンプルに言うと、1990年代以降に生まれ、社会問題への関心が高く、「自身の幸福」に対する興味や関心が高い世代、という趣旨の言葉です。興味がある方は、Youtubeで中田敦彦さんが非常に分かりやすい解説動画を上げてくださっているので、ぜひ見てみてください。
もちろん、「アンチワーク」自体が「労働観を見直し、自身の幸福を追求すること」にフォーカスしているので全年代から支持を受けているようですが、中心となっているのは、ミレニアル世代とZ世代のようです。
でも、本当にアンチワークって起きてるの?
「アンチワーク」への支持と「大退職時代」の繋がりは分かったけど、本当にみんな「働かないこと」を目指しているの?そんな疑問も、もちろんあります。
そんな疑問に答えるかのように、「アンチワーク」と並行して、別の価値観が生まれ始めています。その価値観とは「slow-up」(スローアップ)と「Great Reshuffle」(大シャッフル)です。それぞれ、別個に紹介しますね。
スローアップ
職場での生産性を敢えて下げて、「ワークライフバランス」を達成しようという考え方です。がむしゃらに働くのではなく、メリハリをつけて働き、適正な労働時間やアウトプットとは何かを再考しよう、という主張です。
大シャッフル
仕事が合うかなんて、やってみないと分からない。適職に出会うまで、短期間転職を繰り返すのを良しとする姿勢です。
参考:From a ‘slow-up’ to the ‘Great Reshuffle,’ Gen Z is demanding a better workplace. And it’s working.
いかがでしょうか。
「スローアップ」も「大シャッフル」も、従来の労働市場や職場の価値観とは大分離れているかもしれません。一方で、過度に「生産性」を重視した結果、今の労働環境が出来上がったのは事実ですし、「適職」に出会えるかは「運」も大きい気がしますよね。
見方を少し換えると、今の労働環境や労働文化に対する極端な返答が「アンチワーク」だとすれば、「スローアップ」や「大シャッフル」は現実的な落とし所を提案しているようにも見えます。そして、これらの価値観を支持している世代層こそが、「Z世代」と呼ばれる方々なのです。なので、先ほどご紹介した中田敦彦さんの動画は、本当に見て欲しいのです。
日本でアンチワークは流行るのか
さて、話はアメリカから日本に戻ります。日本で「アンチワーク」は流行するのでしょうか。個人的な見解ですが、「アンチワーク」は無視されて「スローアップ」と「大シャッフル」が定着するのではないかと考えております。
そんなに大した理由ではないのですが、「アンチワーク」って結構パンク精神とか反権力的な思考が土台にあると思うんです。そして、権威に反抗的な思想って、日本では支持を集めにくいです。サブカルまではいい感じに発展するのですが、なぜか一般ウケしないことが多いと感じています。そのため、「アンチワーク」はスルーされて、世代的な常識となりつつある「スローアップ」と「大シャッフル」が受け入れられるのではないでしょうか。
とは言え、「アンチワーク」の主張自体は、注目に値するものが多いです。日本国内においても、これまでの労働観やキャリアを過度に重視することを見直す方が増えたのではないかと思います。