神経の可塑性とは?成人でも脳を意図的に変化させることができるの?
神経可塑性とは、脳が変化して、環境に適応する能力のことです。脳科学によると、私たちの脳は常に学習や成長、新しい経験や状況に応じて変化することができることが分かっています。
この神経可塑性は、全ての年齢層の人が持っているようです。
しかし、25歳前後になると、脳の学習能力や適応力が低下すると言われています。その場合は、脳が「変化する必要性」を感じなければ、神経可塑性が作動しづらいと考えられています。つまり、「意識的」に注意を払ったり、ものごとを経験することが大切になります。
この記事では、成人以降も神経可塑性を発動させる方法について、脳科学に関する研究をまとめてみました。脳の「仕組み」を理解することで、脳の配線を変える方法を摑めるかもしれません。
目次
神経可塑性とは?
神経可塑性とは、新しい経験や状況に応じて変化・適応する脳の能力を表す言葉です。
以下の仕組みで、神経可塑性が起こると考えられています。
①新しいことを学ぶと、脳はニューロン(脳細胞)間に新しい結合を作ります。
②このニューロン間の結合は、新しい情報を理解し、記憶するのに役立ちます。
③新しいスキルや活動を練習し繰り返すほど、ニューロン間の結合が強くなり、新しい学習がより定着していきます。
このように、新しいニューロン間の結合が生まれたり、既存の結合が強化されることで、私たちは新しいことを学び、スキルを向上させることができます。
新しい環境に適応したり、新しい言語を学んだりできるのは、この神経可塑性のおかげです。
成人でも同じ仕組み?
神経可塑性は、幼少期や青年期だけに限られたものではありません。脳はいくつになっても変化し、適応する能力を持っています。
25歳以下であれば、ただ生きているだけで、私たちの脳は世界と触れることによって、どんどん再配線されていきます。特定のニューロン結合が洗練され強化される一方で、不要な接続は自然と失われていきます。
しかし、25歳前後で脳の学習能力と新しい知識への適応能力が低下すると言われています。そのため、神経可塑性を引き起こすためには「意識的」に注意力を集中させたり、ものごとを経験する必要があると考えられています。
神経可塑性に必要な化学物質
「意識的」に物事に注意を向けると、以下の2つの神経化学物質が放出されます。
これらの神経化学物質は、神経回路を強調したり、長期的な変化の可能性を高めるのに役立ちます。
エピネフリン
エピネフリンは、私たちが高い覚醒状態にある際に放出されます。脳を全体的に目覚めさせ、神経細胞の活性化を促します。
※エピネフリンとアドレナリンは、化学的には同じものです。
アセチルコリン
アセチルコリンは、脳幹と基底核という脳の2つの部位から放出されます。
この化学物質は、スポットライトのような役割を果たし、集中力を生み出します。
成人以降も神経可塑性を引き起こすためには、これら2つの化学物質の放出をコントロールして、神経可塑性のための最適な状態を作り出すアプローチが大切になってきます。
神経可塑性を引き起こすための4ステップ
脳神経学者のアンドリュー・ヒューバーマン氏(Andrew Huberman)によると、以下の4ステップにて神経可塑性のための最適な状態を作り出すことができると考えています。
①エピネフリン放出で覚醒する
良好な覚醒状態を得るために、十分に体を整えましょう。
・十分な休息をとる
・十分な水分補給
・必要に応じてカフェインを摂取する(起床後60~90分が理想的)
次に、精神的な準備を行います。
なぜ学びたいのか、なぜ変わりたいのか、それらの理由を明確にしてみましょう。
エピネフリンは化学物質なので、ポジティブな動機とネガティブな動機の区別はつきません。
とにかく、「強い動機」を認識することが大切です。
この動機付けは、ネット上でよく見かける「インチキ自己啓発」とは違います。
これは、あなたの体内のエピネフリンの放出を刺激し、覚醒度を高めるための精神的な「準備運動」となります。
②アセチルコリン放出で集中力を高める
多くの人はドラッグで集中力を高めようとしますが、行動習慣を用いる方が良いでしょう。
ここで重要となるのは、「精神的な集中は視覚的な集中に続く」ということです。
通常私たちの視覚の焦点は、ぼやけているか、空間の一点にレーザーみたく集中しているかのどちらかです。この視点の集中度が、私たちの精神集中のレベルを決定すると考えられています。
例えば、勉強中に気が散って、頭がぼんやりすることがあるかもしれません。
そんな時は、1~2分間、小さな点(例えばページの隅や特定の単語)に、視覚的な集中させてみましょう。
目が特定のターゲットに向かって内側に移動すると、視覚の世界が小さくなります(トンネルビジョン状態)。
このとき、脳幹の神経細胞が活性化され、ノルエピネフリン、エピネフリン、アセチルコリンが放出されます。
視覚イメージが細かく、(まばたきを減らして)視線を維持すればするほど、注意のレベルが高くなります。
2、3分、特定の場所に視線を集中させ続けてみましょう。
そうすることで、集中力が高まります。
Neuroplasticity (neural circuit rewiring) is a 2 phase process: it is initiated by alert, focused (even agitated) states, but consolidated during deep & REM sleep & non-sleep-deep-rest (NSDR). Brain changes require toggling back and forth between these two states. #science
— Andrew D. Huberman, Ph.D. (@hubermanlab) May 11, 2022
③90分単位で作業する
私たちの神経系は、生物学的な周期で機能しています。
大まかには、24時間の概日周期が私たちの覚醒状態と睡眠状態を定義しています。
そして、より細かいレベルでは、すべての覚醒状態と睡眠状態は、超日常リズムに分割されています。
この超日常サイクル(90分単位)は、日夜問わず繰り返されています。つまり、私たちは「90分」の間に集中力と注意力を高めるために最適化されているのです。
超日常リズムによると、私たちの身体は、90~120分ごとにエネルギーと覚醒度が高くなり、その後、疲労度が高くなる時間帯が発生します。
覚醒時に集中して物事に取り組むと、より高い生産性を発揮できる可能性が高まります。逆に、休憩が必要な時間帯に無理をすると、体の自然なリズムに逆らわなければならないため、身体的にも精神的にも辛くなってしまいます。
④睡眠や休養を取る
集中的に学習した後は、一旦離れて適切な休息をとることが大切です。
神経可塑性と学習のきっかけは、高い集中力と高い覚醒度の状態にあるときに起こります。
しかし、神経可塑性とは、私たちの神経系が変化するための状態や能力のことです。
そのため、最終的なゴールは「脳の再配線と再構成」となります。
そして、それは深い眠りや休養を取っている間に起こります。
アセチルコリンによって強調された神経回路は、その夜から翌日の夜にかけて強化され、新しい知識やスキルが神経回路に焼き付けられていきます。
脳が最適に機能するためには、回復と再生が必須条件となります。
まとめ
最適な神経可塑性と学習は、高集中と高覚醒の状態に発生します。
90分のセッションで作業することを意識してみましょう。
その後、私たちは深い眠りやその他の休息によって、日中に学習したことを処理しながら脳を再構成しています。
Source:
Huberman’s 4-Step Protocol For Learning that Changes Your Brain
NEUROPLASTICITY SUPER-PROTOCOL
THE SCIENCE OF A SUCCESS MINDSET