イーロン・マスクの祖父は革命家だった?!テクノクラシーとはどういう考え?

最終更新日

イーロン・マスク氏は、最も刺激的で、人類への功績が多大な起業家の一人だと言われています。しかし、彼の科学技術に対する姿勢や冒険心は、どこから生まれたのでしょうか?

ハーバード大学の歴史学者であるジル・ルポア氏は、マスク氏のルーツは彼の祖父にあると考えています。マスク氏の祖父であるジョシュア・ホールドマン氏は、カイロプラクターであり、アマチュアの考古学者/冒険家でした。

また、1930年代にはカナダの「テクノクラシー」運動のリーダーを務めていました。当時のテクノクラシー運動は、民主主義に代わって「エンジニアが社会を導く」ことを目指す社会運動でした。

当時のカナダ政府は、この考え方を危険視してテクノクラシー運動を禁止しています。

第二次世界大戦後、テクノクラシー運動は沈静化しました。しかし、現代でもシリコンバレーのIT起業家や仮想通貨業界などに、その影響を垣間見ることは可能です。

目次

テクノクラシー思想とは?

テクノクラシー思想とは、効率性・合理性・科学的メソッドに従って、社会を運営するべきだという考え方です。元々は、1930年代のアメリカで始まった政治思想です。


Source: In science we trust

従来の民主主義と大きく違う点は、選挙で選ばれた政治家に代わって、各分野の技術者や科学者(通称テクノクラート)が社会を率います。

また、以下の事柄もテクノクラシーが目指す世界の特徴です。

・政治家、ビジネスマン、そしてお金や所得格差が存在しない。
・国家も存在しない。大陸全体が、エンジニアや各分野の「専門家」が運営するテクノユートピアとなる。
・労働の有無に関わらず、誰もが十分な住居と食事にありつける。

テクノクラシー思想は、より効率的で生産性の高く、公平な社会を作るためには、テクノクラートが政府を行う必要があると主張しました。

マスク氏の祖父であるホールドマン氏は、テクノクラシー運動のカナダ支部のリーダーを務めていましが、組織や国に愛想を尽かし、南アフリカに移住したそうです。

現代社会とテクノクラシー

1940年代以降、テクノクラシー運動は衰退しました。しかし、その思想の一部は、現代の政府や企業で採用されています。また、現代の科学や技術の進歩により、テクノクラシーが再び注目を集めていると考える人々もいます。

テクノクラシーが再注目されている理由は、その思想が2つの重要な「問題提起」を行なったからです。

その2つは、

①自動化(オートメーション)によって、大量の失業者が生まれたとき、政府はどのように対応するべきか。
②テクノロジーの支配力(影響力)が圧倒的に強い世界において、民主主義は機能できるのか。

です。

①オートメーションによる大量失業

技術の進歩によって、大量失業が発生するという懸念は「産業革命」時代からありました。しかし、技術進歩は新しい仕事や雇用を作り出し、仕事の総量が増えるというのがこれまでの歴史です。

しかし、現代の技術進歩(ロボットやAI)は、別の道をたどるいう予測もあります。

2019年にオックスフォード・エコノミクス(イギリスの研究機関)が発表したレポートによると、2000年以降、世界ではすでに約170万人の雇用がロボットに奪われているそうです。

2020年にアメリカ大統領候補に立候補したアンドリュー・ヤン氏(シリコンバレーの起業家)は、「私たちは人類史上最大の経済的・技術的変化を経験している」と宣言して、「何百万人ものアメリカ人がこの時代を移行するのを助ける方法が必要だ。」と主張しています。

※ヤン氏は、月額1,000ドルのUBS(ベーシック・インカム)の導入を提案していました。この提案は、シリコンバレーのエンジニアや起業家たちの間で、かなりの支持を得ている考え方です。

また、イーロン・マスク氏も同様の発言をしています。

2017年の世界政府サミットで、マスク氏は「完全自動運転」が数百万の雇用を奪う可能性があると述べ、ベーシック・インカムへの支持を表しました。

さらに、ベーシックインカムは大量失業が引き起こす問題の一部分にしか対処できないと主張しました。

それは、多くの人が「雇用」から生きる意味を得ており、自分の労働力が必要とされなければ、自分の存在意義が無くなってしまう可能性があるからです。

②技術の圧倒的な支配力

現代でもその兆候がちらほらと見受けられるかもしれませんが、テクノロジーや科学技術を理解しない人々が政治を担っている場合、誤った決断が下される可能性が高まります。

テクノクラシーは、各分野で高レベルな専門知識を持つ人たちだけが、その領域の統治を行うべきだと考えます。そのため、企業人、弁護士、銀行家、学者など、現代では広く認められている実践的なスキルを持った人材は排除されていきます。

政府のコア機能である教育、健康、衛生、治安はすべて、専門家によって運営されます。例えば、医療大臣は医師から選ばれ、教育大臣は教師から選ばれます。内閣は各分野の専門家で構成され、彼らが全体の統括を行う「リーダー」を任命します。

このプロセスには、(専門家による)投票という側面以外、民主主義の欠片もありません。

一方で、テクノクラシー思想は民主主義の欠点である「無能な人々による統治(が起きる可能性)」を克服できると考えています。

テクノクラシーは避けられない?

テクノクラシーが掲げる「専門家による統治」は、今後ますます望まれるようになる可能性があります。

将来的なパンデミックの防止や気候問題、そして強力なAIの扱い方など、現代社会はますます複雑化しています。

果たして、それらの問題を解決するリーダーを「人気投票」で決めてしまっても良いのか、本格的に議論すべきタイミングが訪れるかもしれません。

テクノクラシーは多くの問題を「科学的」な方法だけで解決しようとします。

しかし、新型コロナウィルスによるパンデミックのケースだと、「経済」や「コミュニティ」、「家族や子供の教育」など、医療以外の課題も多く露呈しました。

テクノクラシーは、これらの問題を即座に「専門的」に解決しようとします。

そのため、その過程で多くの人々の「社会」が無視されてしまう可能性が生じるのも事実です。

テクノクラシーが掲げた2つの課題をどう解決するかは、今後ますます重要度が高まるトピックであることは間違いありません。

Source:
Technocracy movement
Science fiction and grandfather’s views shaped Musk, historian says
In science we trust

シェアする