ドーパミン・デトックスを正しく活用して習慣を育てよう
近年、ドーパミン・デトックス(Dopamine Detox, Dopamine Fasting)という言葉を耳にすることが増えてきました。ドーパミン・デトックスとは、SNS、テレビやゲーム、ジャンクフードなどの高刺激な活動を控えることで、脳の報酬系がリセットされ、生産性の向上や良い習慣作りに取り組みやすくなるという考え方です。
結論から言うと、ドーパミン・デトックスには科学的な根拠がありません。なぜならば、私たちの脳は常にドーパミンを生成しているからです。
しかし、ドーパミンの仕組みを理解したり、ドーパミン・デトックスの元になった考え方を知ることで、私たちの人生を向上させる習慣作りに生かすことはできます。
そして、SNS・ジャンクフード・テレビなど、中毒性が高く有害な活動や物質から少し距離を置くことは、私たちの心やライフスタイルに良い影響を与える可能性の方が高いです。
目次
そもそもドーパミンとは?
ドーパミンは、脳の神経細胞間で信号を伝達する神経伝達物質です。私たちのモチベーションや集中力、目標に向かうための行動力などと密接な関係があります。
ドーパミンレベルが上昇すると、私たちは「欲しいもの」に注意が向い、それを追求する意欲が高まる傾向があると考えられています。報酬を期待したり、喜びをもたらす活動にふけることを期待するだけで、体内のドーパミンレベルが上昇します。そのため、一般的にドーパミンは、「快楽物質」と呼ばれることが多いです。
スタンフォード大学で依存症や中毒を研究しているアンナ・レンブケ博士によると、ドーパミンは私たちが何かを「欲する(wanting)」ことと強く結びついている物質です。
ドーパミンと依存症の関係
ドーパミンの効果は長続きせず、直後に「痛みや気分の落ち込み」が生じるようです。そのため、私たちは繰り返し「快楽」を求めるようになります。これが、私たちがドーパミンを繰り返し求めるメカニズムだと考えられています。
この「快楽と痛み」の仕組みは、食料や避難場所を常に求めていた初期人類にとっては、非常に理にかなっていました。しかし、SNS、ジャンクフード、テレビやゲーム、ポルノやセックスなど、現代ではドーパミンを誘発させる高刺激の物質や体験が簡単に入手できます。「豊か」になった現代では、ドーパミンと痛みの仕組みが、私たちを苦しめている可能性があります。
快楽物質に繰り返し体験すると、脳は普通の状態を感じるために、より多くの刺激が必要になります。加えて、快楽物質を体験していない時は、不安やイライラ、渇望感などを感じてしまいます。これは「ドーパミン不足状態」と呼ばれている状態で、うつ病や不安症などにも繋がると考えられています。
また、簡単に快楽を得られてしまうと、私たちは長期的なゴールや習慣作りに、エネルギーを使わなくなる可能性があります。例えば、運動や読書などを行った方が人生が向上すると分かっていても、目先のSNSやジャンクフードを摂取すると、私たちの脳は満足してしまいます。
そこで出てきた考え方が「ドーパミン・デトックス」です。
本来のドーパミン・デトックス
キャメロン・セパ博士が考案したドーパミン・デトックスは、実はドーパミンやデトックスとはあまり関係がありません。
そもそも、ドーパミンは快楽や報酬に反応して上昇しますが、刺激を避けても減少するわけではありません。そのため、ドーパミンを「デトックス」することは不可能です。
セパ博士が考案したドーパミン・デトックスとは、認知行動療法に基づいており、現代のテクノロジー社会の中で暮らす人々が、止めどなく続く刺激(スマホの通知など)に振り回されないための手法でした。
具体的には、スマホの通知など、即効性のある刺激から脳を休息させ、「通知中毒」状態をリセットすることを目的にしていました。「通知中毒」から抜け出し、よりシンプルで自然な活動に楽しみを見出し、自分の人生を取り戻そうというコンセプトです。つまり、当初の「ドーパミン・デトックス」は、デジタル社会から意図的に距離を置き、人生の質を高める方法を人々に提供することが目的でした。
しかし、セパ博士は「ドーパミン・デトックス」は、スマホ通知だけではなく、私たちの人生に悪影響を及ぼしているあらゆる行動をコントロールするのに役立つと考えています。その代表的な「悪影響」が、以下の6つです。
・感情的な食事(ストレス解消のための過食等)
・過剰なネットやゲーム
・ギャンブルや買い物
・ポルノやマスターベーション
・スリルや新しいものを求め続ける
・ドラッグ
※いずれも「悪影響」となるのは、消費時間や摂取回数が過剰な場合です。
結局、ドーパミン・デトックスは効果あるの?
脳は常にドーパミンを生成し続けているため、本当の意味での「ドーパミン・デトックス」は不可能です。しかし、SNS、ジャンクフード、テレビやポルノなど、中毒性が高い活動や物質と距離を置くことは、人々の心や人生に良い影響を与える可能性があります。
ドーパミン・デトックスは、その効果を裏付ける科学的根拠がないのは事実です。
一方で、ドーパミンは、私たちの行動動機やモチベーションに深く関わっています。そして、現代社会は私たちの「報酬系」をハイジャックすることに特化したモノや体験に溢れかえっています。
重要なのは、本当に幸せや満足を感じられる活動や習慣からドーパミンを得ることかもしれません。
Source:
Breaking down the Science of Dopamine fasting
Tools to Manage Dopamine and Improve Motivation & Drive
Too much pleasure can lead to addiction. How to break the cycle and find balance
Dopamine fasting: Misunderstanding science spawns a maladaptive fad
カジノから学ぶドーパミンの管理方法